桜凛学園1年A組「#1 HR」の続き

桜凛学園1年A組「#1 HR」の続き
「だけど実際、殺されそうになっていたBさんには冷静な記憶が残っておらず、恐怖心から全く異なった記憶を真実だと思い込んでいる。そう、『弟が助けてくれた』ではなく、『弟が家族を襲った』という記憶になってしまっている。そうなると、本来ならば姉を助けたAさんはBさんにとって正義のヒーローになるはずだったのに、恐ろしい殺人鬼、つまり悪役になってしまう。
それからというもの、正義のヒーローに捕まって罰を受け、傷つけられたくないAさんは必死に逃げ回る。やがて一家殺人犯として指名手配され、自分を倒そうとしてくる正義のヒーローから身を守るために、相手を殺してしまう。そしていつの間にか・・・」

話を黙って聞いていたクラスメイトたちはゴクリと息を飲む。

「悪に、なってしまっていた。」

ハルは真剣な顔で、淡々と話していたのを終えて、パッと明るく笑った。

「さて、例で出す話はこんな感じでイイカナ?本題に入ろうか」

ハルはカツカツと黒板に何か書き始めた。

「んっ!」

―――『Aさんは、本当に悪なのか?』

「みんなが今の話を聞いて単純に思ったことを今度は私に聞かせてよ」

さっきまで静かだった教室が騒ぎ始める。すると、いつもお調子者の男子が一番に手を挙げる。

「単純に、Aがかわいそうだと思ったよ。でも、なんで逃げる必要があったんだろうなとも思ったよ。まぁ、ちゃんとしたって言うのも変だけど、理由があるんだから、正々堂々そう証言したらいい。でも、家族を守るためとはいえ、殺してしまったのは事実なんだし、そーゆー所は犯罪になるんじゃないのか?」

今度は吹奏楽部の部長で責任感のある女子が手を挙げる。

「でも多分、逃げたのは、唯一の味方がいなくなって、分かってくれる人なんかいないって思ってしまったからじゃないかな?だって―――」

そんな調子で話し合いが繰り広げられる。
みんなで話し合った結果、「Aが人を殺してしまったのは事実だけど、虐待を受けていたのも、Bさんという唯一の味方がいなくなってしまったのも事実だから、全てが悪というわけではない」となった。

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